大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌高等裁判所 平成4年(ネ)14号 判決

控訴人

柴田正稔

控訴人

柴田トモ

右両名訴訟代理人弁護士

塚田渥

被控訴人

東京海上火災保険株式会社

右代表者代表取締役

五十嵐庸晏

右訴訟代理人弁護士

向井諭

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

一当事者の求めた裁判

1  控訴人ら

(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人は、各控訴人に対し、各二五〇万円及びこれに対する平成二年六月一二日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(三)  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(四)  仮執行の宣言

2  被控訴人

主文第一項と同旨

二事案の概要

本件事案の概要は、次のとおり付加するほか、原判決における「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  控訴人らの当審における主張

本件事故車両を運転していた三分一は、山口に雇用されていた訳ではないから、右車両の使用について、山口らとともに本件免責条項における「正当な権利を有する者」であったというべきであるが、仮に、三分一らが山口に雇用され、右の正当な権利を有する者に該当しなかったとしても、三分一らは、「正当な権利を有する」山口から、業務上、外が問わず、右車両の使用を禁止されておらず、その使用について許諾を得ていたものである。したがって、三分一の承諾を得て本件事故車両に同乗した亡辰之は、「正当な権利を有する者の承諾」を得て搭乗したものというべきであるから、控訴人らは、被控訴人に対し、本件保険契約における搭乗者傷害に係る保険金を請求することができる。

2  控訴人らの当審における主張に対する被控訴人の反論

本件免責条項における「正当な権利を有する者」とは、記名被保険者(本件ではカナモト)を指すものと解される。そして、この「正当な権利を有する者」から車両の使用について許諾を受けた者も被保険者たりうるが、本件においては、それは大澤建設であり、また、それを拡張したとしても山口までである。本件事故車両については、業務外の利用は想定されておらず、また、本件事故当時、亡辰之は、山口から本件事故車両への搭乗行為を制止されていたのであるから、同人は、「正当な権利を有する者」の許諾を得て右車両に搭乗したものでなかったことは明らかである。

三証拠関係

証拠関係は、原審及び当審訴訟記録中の証拠目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

四当裁判所の判断

当裁判所も、控訴人らの本件請求は理由がなく、いずれも棄却すべきものと判断するが、その理由については、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決「事実及び理由」中の「第三 争点に対する判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決三枚目表七行目の「佐々木某」を「佐々木勝彦」に改める。

2  同三枚目裏二行目から同三行目にかけて、同一一行目、同四枚目表六行目から同七行目にかけての各「証人山口実 同渋谷憲夫」をそれぞれ「原審証人山口実、同渋谷憲夫、当審証人佐々木勝彦」に改める。

3  同四枚目裏八行目から同九行目にかけての「山口が本件事故車両をそのまま山口が自分の請け負う工事現場において使用することを承諾していたばかりでなく、本件事故車両の管理をも」を「本件事故車両が、そのまま山口の請け負う工事現場において、山口の管理の下に使用されることを承諾していたばかりでなく、本件事故車両の日常の管理をも」に改める。

4  同五枚目表三行目の「事故車両を業務上使用するのは山口であることは認識しつつ」を「事故車両を業務上管理し、使用に供するのは山口であるとの認識の下に」に改める。

5  同5枚目表六行目から同七行目にかけての「各作業員に対しては、本件事故車両の使用を業務上の場合に限定し、しかも運転する者は」を「業務上本件事故車両を運転する者としては」に改め、同八行目の「二名に」を「二名を」に改める。

6  同五枚目表一一行目の「証人山口実」を「乙一〇、一一、原審証人山口実、当審証人佐々木勝彦」に改める。

7  同六枚目表八行目から同七枚目表二行目までを次のとおり改める。

「二 ところで、前記争いのない事実及び乙第四号証の一ないし三、第五号証によると、本件保険契約においては、「搭乗者傷害条項」として以下のとおり定められていることが認められる。

第一条 (当会社の支払責任)

①  当会社は、保険証券記載の自動車(略。以下「被保険自動車」といいます。)の正規の乗車用構造装置のある場所に搭乗中の者(以下「被保険者」といいます。)が被保険自動車の運行に起因する急激かつ偶然な外来の事故により身体に傷害(略)を被ったときは、この搭乗者傷害条項および一般条項に従い、保険金(略)を支払います。

②  略

第二条 (保険金を支払わない場合―その一)

①  当会社は、次の傷害については、保険金を支払いません。

(1) 被保険者の故意によって、その本人について生じた傷害

(2) 被保険者が法令に定められた運転資格を持たないで、または酒に酔ってもしくは麻薬、大麻、あへん、覚せい剤、シンナー等の影響により正常な運転ができないおそれがある状態で被保険自動車を運転しているときに、その本人について生じた傷害

(3) 被保険者が、被保険自動車の使用について、正当な権利を有する者の承諾を得ないで被保険自動車に搭乗中に生じた傷害(本件免責条項)

(以下略)

右の事実によれば、本件保険契約における搭乗者傷害条項は、搭乗者としての被保険者の範囲を、記名被保険者(保険証券記載の被保険者)又はこれに準ずる者によって被保険自動車が使用された場合における運転者、ないしはその承諾を得て同乗した者に限定する趣旨であると解されるところであるから、本件免責条項における「正当な権利を有する者」とは、被保険者が被保険自動車の同乗者である場合においては、保険契約における記名被保険者に相当する者(記名被保険者・名義被貸与者)又はその承諾を得て被保険自動車を使用する者を指すと解するのが相当である。」

8  同七枚目表六行目の「無償で」を削除し、同九行目の「与えていたというべきであるから」の次に、「本件事故車両の同乗者を「搭乗者」とする場合には」を加え、同一〇行目の「山口はこれに該当する者」を「山口又は山口からその運転を許諾された者がこれに該当するもの」に改める。

9  同七枚目表一〇行目の次に、行を改めて左のとおり加える。

「しかしながら、山口が取りまとめていた三分一ら各作業員(山口班ないし山口グループ)については、原審において控訴人らの主張するように、各作業員自身が、山口と対等の立場に立ち、山口を通じてカナモト及び大澤建設から、直接、右の使用の承諾を得ていたものと認めることはできないといわざるをえず、その他、本件において右の承諾の事実を認めるに足りる証拠はない。」

10  同七枚目表一一行目から同枚目裏一行目にかけての「ところで、先の事実によれば、三分一は、山口から業務外での本件事故車両の無断使用は禁じられていたにもかかわらず」を「そして、先の事実によれば、三分一は、山口から、業務外での本件事故車両の一般的な使用について特に許諾を得ていなかったものと認められる(甲二の記載及び当審証人菅原文男の証言内容もこれに反するものとはいい難い。)ばかりでなく、本件事故当日においては、本件事故車両を運転する直前に、山口から、酒に酔った状態での車両の運転を厳しく禁じられたものであることが明らかであり、それにもかかわらず、三分一は」に改める。

11  同七枚目裏五行目から同一〇行目までを削除し、同一一行目の「搭乗」を「同乗」に改める。

12  なお、控訴人らは、当審において、三分一が山口から本件事故車両の使用について承諾を得ていた旨を改めて主張するが、日常かつ本件事故当日における右承諾の事実が認められないことは既に説示したとおりである。

五以上によれば、原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がないから棄却することとし、控訴費用について民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官清水悠爾 裁判官安齋隆 裁判官持本健司)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例